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たとえば君が鳥ならば【ニルアド】

第9章 闇の嘲笑-ナハティガル-



「彼等も私と同じ、貴女に非常に……──興味があるんですよ」



その言葉に、背筋を冷や汗が伝った。彼は口説いているつもりなんだろうか。けれど感じるのは、もっと深く──暗い何かだ。



「そうそう、カクテルは如何ですか?今宵のための特別なレシピです」



四木沼さんはそう言って笑んだ後、後ろに控えている給仕に目を遣った。



銀色の盆の上に、光の加減で金色にも見える、朱みがかった飲み物のグラスが行儀良く並んでいる。



『そうだ、飲み物とか勧められても絶対に飲むなよ』



「…申し訳ありません。お酒が得意ではなくて」



「おや、お酒は入っていませんよ」



「(どうしよう、何て言えば…)」



「なら何か他の飲み物を用意させましょうか?貴女のためなら、何なりと」



その食い下がり方に微かな違和感を覚え、思わず私は後ずさる。



「…それとも、もっと官能的かつ刺激的な夜を味わってみるというのは如何ですか?」



「!?」



「貴女が望むなら今すぐにでも別の宴にお連れしますよ?他の男達に捕えられる前に…私が貴女を奪って、その綺麗な瞳に刻み込んであげますよ」



彼の指が私の手首を掴もうとした──その瞬間。



「結構です」



彼の手を思いきり、振り払った。



「私に触らないで下さい」



不快そうに眉を顰め、軽蔑の眼差しで睨み付ける。嫌悪感を抱く表情に、先程までの恐怖感はない。



今あるのは…激しい憎悪。女性を人として見ていないその扱いに吐き気がした。そんな私を見て驚いた四木沼さんだったが、すぐに面白そうな笑みを浮かべる。



「強引に引き込めば流されてくれると思っていたんですが…なるほど、気の強いお嬢さんでもありましたか。そんな眼で見られるとは意外でした」



「…失礼します」



私は身を翻し、その場から立ち去った。



「(気持ち悪い…吐き気がする…)」



今頃恐怖がまた戻ってきて、目に涙が浮かぶ。



「(…嫌だ、誰か…滉…!)」



華やかな客で溢れ返るホールを、私は唇を噛み締めて足早で駆け続ける。



幸い、追い掛けてくる気配はないようだった。



「…おい!」



「いや!?あ……っ」



肩を掴まれ、はっと振り返ると滉が立っていた。



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