第9章 闇の嘲笑-ナハティガル-
「もし貴女にこの店を気に入って頂けたなら嬉しいですね。…ほら、ご覧なさい、あそこの貴婦人を。」
彼はホールの中央で、何人もの男性に囲まれて嬌声を上げている女性達を指した。
「まるで女王のような振る舞いではありませんか?仮面で顔を隠していますが、実は彼女はさる政府高官の奥方なのです。引き連れているのは、彼女が総て金で買った男達ですよ」
「………っ!?」
「…ああ、私としたことが陳腐な言葉を使ってしまいましたね。『割り切った大人の遊び』ということです」
私はジッと、何人もの男達に囲まれている女性を凝視める。お金で買った男達の愛。割り切った大人の遊び…。
「…なんて滑稽なんだろう」
お金さえあれば総て手に入ると思っている。地位も名誉も人も何もかも。果たして彼女達はそれで幸せなのだろうか。絢爛豪華なドレスを身に纏い、お金で買った男達からの偽物の愛で満足する。
「それはきっと本物の愛じゃない。上辺だけを取り繕られた偽物の幸せなのに…」
そんな幸せは、愛は、滑稽でつまらない。
「貴女は不思議な人ですね」
「!あ、す、すみません…!」
はっとして四木沼さんを見ると、彼は微笑みを浮かべ、私を見下ろしている。
「その仮面から覗く空色の瞳…。金の糸を紡いで出来たかのような美しい髪。私は貴女のようなお嬢さんに出会ったことはありません。ですから今、私は貴女にとても興味があります」
「!?わ、私なんかに興味を持っても、四木沼さんは何の得もしないと思います。ですから…そのような話に興味はないのです」
「得ならあります」
「え?」
「気付いていますか?先程から暇を持て余した男達が貴女を見ていることに」
「!」
四木沼さんに言われて辺りを見渡す。グラスを手にした男達の口許は卑しく歪み、遠巻きにこちらを見つめている。
「…………っ」
その視線に背中がぞくりと震えた。
「貴女を欲しがっているのですよ」
「!!」
「そのくらい、貴女はとても魅力的な人です。今にでも声を掛けて、貴女を何処かに連れ去りたいのでしょうが…私がいるので近寄って来れないんですよ」
「な、何で…どうして…」
「空色のお嬢さん」
「!」
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