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たとえば君が鳥ならば【ニルアド】

第9章 闇の嘲笑-ナハティガル-



「…おい?何だかもう具合悪そうだぞ?」



「だ、大丈夫!ただ私、本当に夜会なんて出たことなかったから…緊張してるだけ」



「だったらいいけど。…なら、壁の方に行って少し休んでろよ。俺は廊下の方を見てくるから」



「あ、一緒に…」



「いいから。…そうだ、飲み物とか勧められても絶対に飲むなよ。あんたは未成年なんだから」



そう言って彼は足早に去って行ってしまう。追い掛けようとしたものの、丁度演奏が始まり踊りの波に遮られる。



「(本当は成人してるんだけど…)」



私はその波から逃げるように壁に向かった。



「(しっかりしないと…)」



私は完全に場の空気に飲まれていた。



余りにも華やかで、余りにも煌びやかで──爛熟した熱気に打ちのめされる。



私がそっとハンカチで汗を拭った──その時。



「今晩は」



「………!?」



いつの間にか、すぐ目の前に彼が立っていた。



「初めてお目に掛かるお嬢さんですね。私はオーナーの四木沼喬です。」



「は、初めまして…」



……何故?



私は仮面を着けているのに…?



「あ、あの私は…」



「ああ、貴女は名乗らなくとも結構ですよ。せっかくの仮面の意味が失われてしまいますからね」



彼の言葉に安堵しつつも
無意識に後ずさってしまう。



「(何だろう…この違和感…。)」



「そう怯えないで下さい」



「!」



「顔など分からなくとも、その立ち振る舞いで慣れた方か…初めての客かくらいは見当がつきますよ」



「……………」



「それに……──そもそもこの店は余り若いお嬢さんに人気がなくてね。貴女のような可憐な方を見掛けて、つい嬉しくてご挨拶に伺った次第です」



「そ、そうなんですか?とても素敵なお店だと思いますが」



「はは、嬉しいことを言ってくれますね!妻には、もっとシックな方が良かったと散々怒られたんですよ」



こんな取り留めのない話をしているだけなのに、足が竦む。



「(…怖い…)」



微笑んでいるのに、その隻眼は全く笑っていない。唇もちゃんと笑顔を作っているのに、その声には温度がない。



「(まるで…彼みたいに───。)」



柔らかな笑みを湛えているものの、その茜色の瞳はとても冷たい。



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