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たとえば君が鳥ならば【ニルアド】

第9章 闇の嘲笑-ナハティガル-



「馬鹿みたいに豪華な建物だよな。一体どれだけの金が掛かっているのか平民には想像もつかないけど、『ナハティガル』は独逸語で『小夜啼鳥』って意味らしいよ」



「(…小夜啼鳥…)」



「…そんな可愛い店じゃないだろって」



滉がひどく不愉快そうに唇を歪めた。



「金持ちの悪趣味さが良く出てるよ」



───小夜啼鳥。



まさにここは夜に囀る鳥達の場所なのだ。



けれど、無数のランプに照らされ、まるで夜に君臨するかのように聳え立つその姿は、確かにそんな可愛らしい名前では物足りない気がする。



「うわぁ…」



けれど、驚きは更に続いた。



滉と共にそこに足を踏み入れた瞬間──その余りの壮麗さに私は息を呑んでしまった。



総てが煌びやかだった。



薔薇色、葡萄色、真珠色──中央で踊る女性達の様々なドレスが、ステップを踏む度に花びらのように翻る。



天井から吊るされた大きなシャンデリアのクリスタルはそれぞれに光を反射し合いながら私の目を容赦なく突き刺し、眩しさによろめいてしまう。



「(色々と衝撃過ぎて訳が分からない…。こんな場所を好む人達がいるの…?)」



そこに更に甘い香水とほろ苦い煙草とお酒の匂いが濃密に絡まり合い、私は一歩も動けなかった。



「…意外にあっさり入り込めるもんだな。まぁ仮面舞踏会なんてそういうものか」



「確かにこれじゃ誰が誰か分からないね」



ホールに集う誰もが華やかな仮面を身につけ、大袈裟な程に身体を揺らしながら談笑している。



「…いや一人、分かるのがいる。正確には二人か」



「え?」



「あれだよ、あいつ」



滉が視線で促した先に──夫婦と思わしき二人が立っていた。



「あれだよ。四木沼喬と、その奥方の薔子だ」



「………!?」



滉の言葉通り、彼等だけは仮面を着けていなかった。二人共微笑を浮かべて客と言葉を交わしているのに、離れているここかでも冷たい威圧感を覚える。



「見ろよ、あの鴉の羽根」



「え……あ!」



四木沼さんの胸ポケットには、見紛うことなき漆黒の羽根。



「あそこまで堂々としてるといっそ清々しいかもな」



「あの人が…」



言い掛けて、私は小さく立ちくらんだ。



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