第9章 闇の嘲笑-ナハティガル-
ドレスを着てホールに向かうと紫鶴さんがいた。彼は私のドレス姿を見るなり、驚いた顔を一瞬浮かべた後、嬉しそうな声で言う。
「おお!こんな素敵な姫君を見られるなんて!」
「……………」
「もしかしてさりげなく胸を隠しているつもりなの、それは」
「そ、そんなんじゃ…ないです…」
「おや、いつもの勢いがないね。
もしかして恥ずかしがっているのかい?」
「……………」
「隠さなくてもいいんだよ、もっと堂々と見せて僕達男性を悩殺してくれ」
「それは遠慮しま…」
「おー!!そのドレスいいじゃん!!お前の瞳の色に合ってる!!ビューティフル!ゴージャス!キュート!!」
「!」
後からやって来た隼人が私のドレス姿に感動し、ありったけの言葉で褒めちぎる。私は恥ずかしそうに顔を俯かせ、ドレスをギュッと握った。
「似合う似合う!すげー似合ってる!
そういう格好もいいな!」
「あ、有難う…」
「ね、とても良く似合うよね。いいなぁ、今度僕ともその格好でデートしてよ」
「…しません」
二人が余りにも手放しで褒めるので、逆に居た堪れない。
「今日はストールは外して行くんだね」
「え、あ…はい。流石にドレスにストールは変なので。ただ…首元がスースーしますけど…」
「いつもストール巻いてるよな?」
「首が冷えちゃうことが多くて、それでストールを巻いてるの。本当はドレスも首元を隠せるタイプのが良かったんだけど…」
「全然!そっちの方が良いと思う!」
「そ、そう…?」
「お嬢さんはストールが無くても可愛いよ。綺麗な鎖骨も見えて僕には眼福だからね」
「(この二人が揃うと倍に照れる…)」
ファンデーションで"それ"が完全に見えなくなるまで塗り続けた。おかげでストールを巻かずに済んだが、少し変な感じがする。
「ところで…ナハティガルってあのギンザの?もしかして、もしかしなくても…仕事?」
「あそこのお客さんで稀モノを持っている人がいるみたいなんです。様子を見に行って来ます」
私はさりげなく誤魔化した。
「…なるほど。少し心配だけど、君独りではないよね?」
「もちろんです。滉が一緒に」
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