第9章 闇の嘲笑-ナハティガル-
「(そうか、ツグミちゃんの弟さんも帝都大学病院だ。)」
「おい久世?どうか…──ああ」
ツグミちゃんの動揺を目敏く嗅ぎ取った隼人が励ますように軽く肩を叩いた。
「幾ら何でも心配し過ぎだ。それこそ、あの子にもしものことがあったらお前に連絡くるだろ」
「そ、そうよね…ごめんなさい」
「病院行ったついでに、容態のことが聞けそうなら聞いてきてやるよ」
「…有難う。でも無理はしないで」
ツグミちゃんが苦笑すると共に、それまで黙っていた滉が口を開いた。
「……──これでも今夜、ナハティガルに行きますか」
「……………」
「まぁ俺は別に構いませんが…」
そこで滉はちらりと私を見た。
「私も大丈夫です。行けます。せっかくの招待ですし、無駄には出来ません。とっくに覚悟は出来てます」
「偉い!流石は立花!やっぱり度胸あるよ!」
「あ、有難う…?」
「僕も彼女の言う通りだと思います。そろそろ…カラスと決着をつける時期なのかも知れませんよ」
「朱鷺宮さん、私、頑張りたいです」
「…というわけだ。彼女が頑張るというのだからお前も応援してやってくれ」
「…分かりました」
──彼の表情は、やはり何処か不満げで、私は気付かない振りをした。
✤ ✤ ✤
「朱鷺宮さん!約束が違います!こんな…こんなドレスは頼んでいません!」
「大丈夫、可愛いよ」
「そういう問題では…!」
「もう届いてしまったし、今更交換する時間もないし。いつもの服も可愛いと思うが流石に舞踏会は無理だろ?それとも他のドレスに着替えるか?」
「着替えないです…」
私はまた鏡を見遣った。
大きな箱を抱えた朱鷺宮さんが私の部屋を訪ねたのはついさっきのことだ。『今夜の制服』と手渡されたそれに袖を通すと───。
「これでは…胸が…開きすぎです!」
「最近はそういうドレスが流行ってるそうだ。お嬢さんとの『露出の低いドレスにして欲しい』という約束は守ったつもりだぞ?」
「(確かに今のドレスはコレが普通だけど…こんなドレス着たことないよ…)」
そもそもドレスを着ること自体が初めてなのだ。しかも…胸元が大きく開いたドレス…。
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