第9章 闇の嘲笑-ナハティガル-
───翌朝。
当番のホール掃除を済ませた私は、独り朝食を取っていた。白米に小松菜と那須のお味噌汁、焼き魚にヨーグルト。流石に食べ過ぎかとも思ったが、朝から巡回で体力を消耗する為、残さず全部完食する。
「(今日の夜はナハティガルで仮面舞踏会…)」
偵察とは言え、敵陣に乗り込むだけでも不安なのに、更にあの──滉と一緒なのだ。
「(仕事で行くとは言え、まさかずっと一言も喋らないわけにもいかないし…。それよりも一番肝心なことが…)」
ドレス…どうしよう…
ストールを巻くのも変だし…
「(最悪ファンデーションで隠そう。)」
不意に、作戦室の方から誰かが走ってくる気配がして不安が過ぎる。
「あ!おはようございます!あの、実は今、病院から連絡があって…!」
翡翠の言葉に嫌な予感を覚えた。
「昨日の柄長さんが亡くなったらしいんです!」
「………!?」
✤ ✤ ✤
「…こんなことなら、あいつをそのままアパートに引きずってくれば良かった。交番で話している時ずっと意識が不安定で…念のため様子を見た方がいいと思って、病院に運ばせたんだ」
「朱鷺宮さんのせいじゃないですよ。まさか…病院で死ぬなんて誰も想像してなかった」
「……………」
作戦室の掃除をしていた翡翠が
病院からの電話を受けたらしい。
「…夜のうちに病室を抜け出して、屋上から…」
「迂闊だったんだ。鳶田の件もあったから、病院なら安全だろうと思っていたんだが…」
「自分で飛び降りた可能性もあるし、あるいは…」
「口封じ」
「…………!」
「(まぁ…その線が強いよね。)」
「取り敢えず俺が病院へ行きますよ、朱鷺宮さん。丁度今日はあのあたり担当だし」
「そうだな…頼んだ」
いつも毅然としている朱鷺宮さんも流石に重い表情だ。
「また…側には鴉の羽根が落ちていたんでしょうか」
「どうだろうな。落ちたところが庭とかなら、羽根の一枚や二枚、見つけた奴は何とも思わないだろうな」
「…ですよね。孔雀の羽根ならともかく」
「…そう言えば、病院って何処なんですか?」
「え?ああ…帝都大学病院だ」
「……え!」
ツグミちゃんは驚いた表情を見せる。
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