第8章 不快な笑い声-カラス-(√)
「さ、催眠術とかそんなのじゃ…」
「まぁとにかく聞いてくれ。理屈的には無理な話じゃない。だっておかしいと思わないか?」
「!」
「君達があんなに苦労して毎日探してもなかなか見つけられないのに、彼等は何処からかそれを確実に手に入れている」
「…確かに、それはそうですね」
滉が納得したように声にする。
「稀モノは、人間の…書き手の強い思念が焼きついてしまうってことだからね。極度の興奮状態で何かを執筆すれば、それらしいものが出来上がる可能性もある。それを本物と呼べるかどうかは…さておき」
「………………」
「でも、そんな方法で出来上がったものなら、書いた方も読んだ方も相当危険なはずなんだ。本物の稀モノの反応には大きな個人差があって、影響を受けやすい人間、そうでない人間がいる」
「(そうなんだ…)」
「血の繋がりや、繊細な性質…これらが原因で同調してしまうのは頷ける。でもカラスの稀モノは…そんな波長なんてものを通り越して、読んだ者総てに影響を与えてしまうかも知れない」
「………………」
私の鼓膜に、昼間のあの男性の耳障りな笑い声が蘇った。
「そんな非人道的な方法であれば、それは当然オークションが開ける程に本も集まるだろう」
部屋はしんと静まり返り、みんなが猿子さんの次の言葉を待っていた。
「鳶田君の時からおかしいとは思っていたんだ。彼の言動は、薬物使用者の興奮症状に非常によく似ている。そして……───『噂』に聞くカラスが扱っている他の稀モノを読んだ反応も。少なくとも一年前の鳶田君と、今回の柄長君の行動は非常に良く似ている」
「………………」
「強い興奮や陶酔状態、その後の錯乱…暴力、虚脱感。果たしてこれが総て『偶然』だろうか?」
「…そう言われてみれば、確かに」
翡翠が納得する様に言う。
「薬物で人間を強制的に興奮させること自体は割と簡単なんだよ」
「(人をおかしくさせる薬…)」
「いや、正直…今でも、嘘であって欲しいと思っている」
「猿子さん…」
隼人の切ない声が響く。
「…それで、そんな話をした後で何なんだが」
朱鷺宮さんが引き出しから
一通の手紙を取り出した。
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