第8章 不快な笑い声-カラス-(√)
「ただそれがきっかけで…彼等のことを『カラス』と呼ぶようになったんだ。そして奇遇なことにな、今日の男…柄長というんだが、彼もあの本をナハティガルで手に入れたそうだ」
「え……!」
翡翠が驚いた声を出す。
「(私の知る大正時代じゃないよ…)」
もう、言葉が出なかった。
それはまるで、小説の中の出来事のように思えた。現実味を帯びるには、今の私には残酷過ぎたのだ。
「どちらも殺人とするには証拠が足りなかった。それ以来──あそこには迂闊に手出しが出来ずにいる。奴等は本当に狡猾で、証拠隠滅が巧みだ」
「(そんな人達が今も野放しになってるの…)」
「それから今まで、何度か手掛かりらしいものを掴めるかも知れない…という時はあった。でも、直前でそんなふうに消し去られてしまう。人の命なんて、何とも思ってないんだろうな」
「………っ!?」
「どう?こんな話聞いて
フクロウから逃げ出したくなった?」
滉がツグミちゃんを見る。
「…大丈夫です。
逃げたりなんてしません」
「(ツグミちゃん…)」
本当は怖いのに、それでも頑張る優しい子。そうだね、ここで引いたら、結局何も出来ないままここを去ることになるもんね。
「立花は?」
みんなが心配そうに私を見ている。
「いいえ、逃げません。絶対です」
もう、目の前の現実から逃げないと決めたのだ。知らないフリはやめようと。ちゃんと前に進もう、私自身の為にも。
「…まぁ朱鷺宮さんや隼人だって、あんた達を騙そうと思ってたわけじゃないよ。ここに来てまだそんなに経ってないだろ?追々説明していくつもりだったはずだ」
「…確かにそうね」
「誤解するなよ?俺達だって、犠牲を出したいとは思っていない。フクロウの中からも、そして一般の人からも。ただそういった相手だってことを、このへんで改めて肝に銘じておいて欲しいんだ」
「…分かった」
「話してくれて有難うございます」
「さて、ではカラスが扱っている稀モノに関して続きを話そうかな。僕と栞はね、あそこの稀モノは、作家を薬物等で操って書かせているものではないかと疑ってるんだ」
「あー!!やっぱり裏がありますよね!?」
「…え!?そ、そんなこと出来るんですか!?」
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