第8章 不快な笑い声-カラス-(√)
「この日本で今、最高の資産を誇るって言われてる…あの一族でしょう?」
恐らくこの帝都で、その名を知らない者の方が少ないらしいが…私はそんなに詳しいわけではない。
莫大な資産を有し、首相の名を知らない者がいても四木沼という名は覚えている。
「(おじい様も知ってたな。まぁ…私はそのおじい様から四木沼の存在を聞いたんだけど。)」
「その中でも、一番の切れ者って評判の男がいるんだ。四木沼喬って奴なんだけど。そいつがそのナハティガルのオーナーで…そして、カラスの元締めじゃないかって俺達は疑ってる」
「え……!」
「……………」
その時、書庫から猿子さんが出てきた。
「渡してきたよ。…いやぁ尾崎君、あの時を思い出すね」
「ですよねー、はははは」
「…何かあったんですか?」
「一年くらい前にね、今日と殆ど同じ事件が起きたんだよ」
「…同じ事件が?」
「尾崎君が巡回中に、街で妙な男に出くわして、いきなり殴り掛かられたんだよね」
「そうです。名前は鳶田さん」
「酔っ払いかと思いきや、彼の背広の内側から本が一冊落ちた」
「…まさか」
「尾崎君が問い質すと『ナハティガルで手に入れた』と答えたそうだ」
猿子さんは、まるでそれが何でもないことのように穏やかに語り続ける。
「その本を持ち帰り、隠君に確認してもらった結果、間違いなくそれは稀モノだった。ただ…翌日、尾崎君と栞が朝一番で鳶田君の部屋を訪ねた。そこで見たものは…梁で首を吊った彼の姿だったそうだ」
「…………!」
「(梁で首を…)」
その情景を想像してしまった。
「……──懐かしいですね。
俺がフクロウに入る直前の話です」
「それから少しして、今度は警察が仕掛けることになった。警察は警察で、別口であそこが盗難品などのオークションをしているという噂を聞きつけたらしくてね。使用人として若いのを潜り込ませた。でも翌日…──彼は川に浮いていた」
「(っ、なんなのカラスって…。)」
私は辛くなって顔をしかめる。
「そして死んだ二人のポケットには鴉の羽根」
「!?」
「(なんて気味の悪い…)」
「全く、悪趣味極まりないよな。
梟に対して…鴉の羽根なんて」
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