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たとえば君が鳥ならば【ニルアド】

第1章 空の瞳の少女-トリップ-



「(所謂、タイムトリップを引き起こしてしまったのだ。)」



思い返してみれば、最悪な日だった…。



「(確かあの日は…)」



私はこの世界に来る前の、元の世界で起きた"出来事"の記憶を手繰り寄せる───。



✤ ✤ ✤


───平成××年、東京都。



「お待たせ致しました。こちら当店自慢のチーズケーキとアッサムのセットになります」



仕事前に必ず立ち寄る、行きつけの喫茶店で時間を潰し、チーズケーキと紅茶のセットを頼むのが習慣になってしまった。



「(ここのお店、紅茶に蜂蜜を付けてくれるから好きなんだよね。)」



小さめのハニーポットを傾けて、トロトロと流れ落ちる蜂蜜をアッサムに投入する。それをティースプーンで優しく掻き回し、薔薇の紋章が刻印されたカップを持ち、口に含んだ。



「(甘くて美味しい…)」



カップを置き、鞄の中から本を取り出す。普段はあまり本は読まないのだが、友達の勧めで読むようになった。



パラ…パラ…ッとページを捲る音を立て、物語の中に入り込む。ちなみに今読んでるのはミステリー小説だ。



「(私が犯人なら縄じゃなくてピアノ線を使ってトリックを完成させるな。)」



私も犯人になったつもりで殺人トリックを考えてみる。喫茶店は昼時になった事もあり、少しずつ混み始めた。



「(やっぱりこの時間はいつも混むな。静かに本を読みたいのに集中できない。)」



周りが煩くて本の続きを読む気にはなれなかった。読みかけのページに栞を挟み、鞄にしまう。



フォークでチーズケーキを一口サイズに切り、口に運んだ。



「(そういえば、今日から新作のケーキを売り出すって言ってたっけ。)」



大学卒業後、洋菓子店に就職が決まった。私は売る側だが趣味でスイーツも作っている。



「(好きなことを仕事にするのって最高。)」



しみじみと思っていると、後ろのテーブルに座っている女子高生二人の会話が偶然耳に入ってくる。



「ねえ今月号の雑誌、もう買った?」



「当たり前でしょ!だって表紙があの『長谷叶斗』だもん!」



その名前に思わず反応する。



「相変わらずカッコイイよね〜」



「生まれた時から勝ち組って感じ!」



「顔も中身も完璧って最高過ぎる!」



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