第7章 ナイフと紺色の手帳-ヒヨクノトリ-
「目の前には青い空が拡がっているのに、鳥籠の鍵が頑丈に掛けられてるせいで…私は『其処』から出られないんです」
「鍵を開けてもらうことは出来ないのかい?」
猿子さんの質問に私は軽く首を振る。
「あの人が私に自由を…幸せを許さない限り…鍵は絶対に開かないんです」
「その鳥籠の鍵を持っているのはその人なの?」
「はい」
「ならその人に許してもらわない限り…君はずっと鳥籠に閉じ込められたままなんだね」
「……………」
『お前は僕の駒鳥だ』
『勝手に幸せになることは許さない』
悲しい瞳を宿し、茜色のピアスに触れる。
「どうしたらその人は君の幸せを許してくれるんだい?」
「…一生、許さないのかも知れません。だから今でもずっと鳥籠の中に囚われたままなんです」
「……………」
「これじゃあ比翼の相手を見つけることも出来ないですね」
悲しそうに笑う私を猿子さんは凝視める。
「あ、でも誤解しないで下さい。本当は優しい人なんですよ。困っている人がいたら手を差し伸べてくれるし、相談事も親身になって聞いてくれます。彼の優しさに私は何度も助けられたことがあるんです」
「…彼は君の友達?」
「はい、大切な友達です」
「そうか…。君は彼を信じているんだね」
「信じる…そうですね、友達ですから」
私は微笑んで見せる。
「では私はアパートに戻りますね。今度こちらに来る時は紅茶をお持ちします」
「楽しみにしてるよ」
頭を下げ、私はその場を立ち去った。
✤ ✤ ✤
「比翼、かぁ…」
お風呂上がり。
私は温室に来て、寝椅子に横たわった。
「何で猿子さんにあんなこと話しちゃったんだろう…」
誰にも話さないって決めたのに───。
「私って稀モノは見えないし、本には詳しくないし…彼らと一緒にいる意味、あるのかな…」
喉が渇いたら困ると思って淹れてきた透明のガラスのティーポットは湯気が消え、少し冷めている。
「元の世界に帰りたい…」
せめて、彼女に会いたい───。
ガサッ
「!?」
誰かの気配に、私は慌てて跳ね起きる。
「あ、済みません。驚かせてしまいましたか?」
「翡翠…」
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