第7章 ナイフと紺色の手帳-ヒヨクノトリ-
「…『だった』?それってまさか…」
「…───死亡した。稀モノがきっかけで」
「!?」
「彼女はそのことを誰にも話したがらないから、僕が言ったことはどうか内緒にしておいて欲しい」
「…はい」
「こちらの…研究部員だった男だ。だが当時はまだ稀モノの扱い方が手探りで…気付いた時にはもう遅かった」
「………………」
男勝りで、でも優しくて明るくて、責任感に溢れていて──そんな朱鷺宮さんが、そんな痛みを背負っていたなんて。
「知りませんでした…」
事故で死んだ両親のことを思い出す。
大切な人を亡くした悲しみや辛さは、誰だって同じ。だから、朱鷺宮さんが旦那さんを亡くした気持ちは…少しだけ、分かる。
「彼女も、葛藤があったと思うよ。稀モノなんてものがなければと…思ったに違いない」
一番身近にいた人が、突然この世界からいなくなる。死んだ人間に、どんなに会いたいと願っても、それが叶うことはない。
「こんな言い方をしたくはないが、彼のその死により、取り扱い方法が確立されたと言ってもいい」
「(どんなに泣き叫んでも…もう二度と大切な人に会うことは叶わない。)」
「以降…稀モノの研究や管理には細心の注意を払っている」
「………………」
「……──彼の、犠牲を無駄にはしない」
「そう、ですね…」
きっと私は、稀モノの恐ろしさを甘く見ていた。朱鷺宮さんの旦那さんの死、ツグミちゃんの弟さんや鵜飼さんが被害に遭った稀モノの危険性。読んだ者を死へと誘う奇妙な本。
「…一ヶ月じゃ稀モノは見つからないかもしれません。もしかしたら二ヶ月、三ヶ月…最悪の場合、何年も。ですが私は諦めません」
「立花さん…」
"本が人を殺す"
"稀モノに命を奪われる"
そんな世界が存在していいのだろうか…──?
「絶対に諦めたくはないんです。もう二度と犠牲を出さないように。"本は楽しく読む物"──そう認識させなければ。大切な人を失った悲しみや辛さを誰かに背負わせない為にも。私は、諦めません」
「…ああ。栞はいい子を見つけたなぁ」
お面越しではあったけれど、猿子さんがとても嬉しそうに笑ったのが分かった。
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