第7章 ナイフと紺色の手帳-ヒヨクノトリ-
「(人妻!?)」
「いやいや!それを言うなら多分、正解は『お母さんぽい』ですよ!」
「!?」
「ああ……」
みんなが揃って私をじっと凝視める。
「あ、ご、ごめんなさい!気安く触ったりして!ここの人達は女性が安易に男性に触れるのは良くないんだね!うん、理解した…!」
「い、いえ…あの…」
「学生の頃、よく友達のボタンを留めてたりしてたからついお節介を…!今度からは気をつけます!驚かせてしまってごめんなさい…!」
自分の行動にいたたまれなくなって、この場から逃げ出したくなった。
「それって男にもやるの?」
「え?」
「ボタン留めるの」
「えっと…その…」
「留めてるんですね」
「い、いつもじゃないよ?だって外れてると気になるじゃない。だからこう…」
「へぇ…なるほどな」
「(…隼人の声が低い。)」
真剣な表情をする隼人の質問に、どう答えようか迷っていると、私の歯切れの悪さで答えが分かったのか、納得していた。
「本当にごめんなさい。流石に馴れ馴れし過ぎました。反省してます」
「え!?いえいえ、あの、そうではなく!」
「私も気を付けてはいるんですが…どうも世話を焼くのが癖みたいで…。ボ、ボタンとか外れ掛けてると…つい…反射的に…手が…動いて…」
「もしかしてリボンとかも直すタイプ?」
「う、うん…形とかズレてたり緩んでたりすると直したくなる。その…友達に…リボンが上手く結べない子がいて…」
「…そ、そうなんだ」
「だからなんだな」
「え?」
「いや…いつもストールとかきちっと巻いてるし、髪も綺麗に結んでるから…そういうのちゃんとしてないと気になるのかなって…」
「!」
滉の言葉に驚いて彼を見る。私のことなんて興味なさそうなのに、ちゃんと見ててくれたんだと思うと何故か嬉しくなった。
「今度からは許可を得てから直すようにしますね」
私は申し訳なさそうに頭を下げる。
「い、いえいえ!少し驚いただけでありますので、お気になさりませんよう謹んでお願い申し上げます!」
「だから動揺すんなって言ってんだろ、燕野ぉ!」
「隼人、もう少し優しく言ってあげて」
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