第7章 ナイフと紺色の手帳-ヒヨクノトリ-
「どうだった?」
私達は揃って首を横に振る。
「…そっちもか。俺達も全然見当違いだった」
「とは?」
「あの男、稀モノの噂を聞きつけて怖くなって売りにきたらしいんだ。…印刷の本を」
「ああ…」
「それで燕野の制服を見て、捕まるんじゃないかと思って逃げたらしい」
「そ、それは…申し訳なかったのであります…」
「いや別に燕野のせいじゃないから」
「それだけ誤解が広がってるってことよね。この間のあの…鷺澤さんの件もそうだし」
「やっぱり首相の息子にまで被害が出たってのが大きいだろうな」
ツグミちゃん達は顔を見合わせ、それぞれ小さく溜息をついた。
「…あ、そう言えばそのご子息…」
「いるよ、あのアパートに」
「ですよね?でしたら一度、自分もご挨拶すべきでしょうか」
「……………」
「……………」
「そうだな。世の辛酸を嘗めてみるのもいいかもな」
「…はぁ?」
「き、機会があったら、でいいと思いますよ。
彼も忙しいみたいですから」
「なるほど!」
「まぁとにかく、今回は残念ながらというか幸いながらというか、事件には至らなかったけど。新入り三人は気をつけろよ。危なそうな時は先走らず、すぐに応援を呼ぶこと」
「はい!」
「はい!」
「了解です」
「さて、次の店に行くか」
そうしてみんなで歩き出そうとした時だった。
「(…あ、燕野さんのボタン。)」
留め忘れてる
「ちょっと待って、燕野さん」
「はい?」
「制服のボタン、留め忘れてますよ」
私は振り向いた彼の、制服の一番下のボタンを留め直す。
「え!!??」
「……………」
「はい、これで大丈夫です。ちゃんと留まってなかったから気になって」
「あ…ありがとうございます、なのであります…!」
「他にもボタンがほつれてたりしたら言って下さいね。私、ソーイングセット持ち歩いてるのでパパッと直せますから」
顔を赤くした燕野さんが照れた表情で敬礼した。
「あ、有難うございます…!!」
「これしきで動揺してんじゃねぇ、燕野!」
「え?」
「…──何だろう、今の。…人妻っぽい?」
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