第7章 ナイフと紺色の手帳-ヒヨクノトリ-
「まぁあんたの周りには基本的に善人ばっかりだからな、俺くらいこうやって苛めてやらないとな」
「彼らが基本的に良い人なのは知ってます。ですが杙梛さんが良い人かどうかは疑います」
「何でだよ?」
「セクハラ発言ばかりするからです」
「それはお嬢さんが苛めたいほど可愛いからだ」
「全然嬉しくありません」
紫鶴さんと言い、杙梛さんと言い、どうしてこうも女性を揶揄うことに熱心なのか…。
呆れ返ったその時───。
「きゅっ!」
「え……!?」
杙梛さんの肩に乗っていた動物が、突然動き出して、可愛い声で鳴くと、私に向かって飛んできた。
咄嗟のことに驚いた私は、慌てて両手でキャッチすることに成功。
「あれ」
「それ、ぬいぐるみじゃなかったんですね!?」
「きゅきゅ!きゅ!きゅっ!」
いつも杙梛さんの肩にいたその子は、私をそのつぶらな瞳で凝視めている。
「きゅ!きゅきゅ!きゅー!」
「……………」
「お嬢さんが固まってる」
「立花さん?どうかしました?」
「か……」
「きゅ?」
「可愛い──っっ!!!」
私はキラキラと目を輝かせ、その子を頭上高く持ち上げる。
「不思議な生き物だとは思ったけど実際に動くとこんなに可愛いなんて…!!この愛くるしい見た目に加えてキュートな瞳も鳴き声も破壊力あり過ぎて大優勝だよ!!」
「きゅきゅ!」
あまりの可愛さに頬擦りする。
「本当に可愛い!!可愛さを通り越して萌え!!尻尾ふさふさ!!持って帰りたい!!抱き心地も抜群過ぎる〜!!」
今度はむぎゅーっと優しく抱きしめる。
「写真も撮りたいし可愛さのあまり食べちゃいたい!!こうガブッ……て。…………。」
興奮が治まらず、テンション爆上げで一人で喋ってはしゃいでいると、みんなからの視線が突き刺さっていることに気づき、そこで、はっとする。
「(…やってしまった。この子が可愛くてつい我を忘れて暴走して…。あぁぁ…みんなの方を見るのが怖い…)」
きっと呆気に取られて、驚いているはず。私の腕の中にいる生き物は、つぶらな瞳で不思議そうに私を見上げていた。
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