第7章 ナイフと紺色の手帳-ヒヨクノトリ-
「…お嬢さんの答えは分かった。けどお姫さんは、やっぱりこの仕事向いてないかもな」
「杙梛さん!?」
「ちょ…!何言うんですか!向いてますよ、だって彼女は稀モノのアウラが視えるんですよ!?ある意味、フクロウの中で一番向いて…」
「そのアウラは、人間の情念だろ。あんたはそれが…──視えるってことだろ」
その言葉の響きにツグミちゃんの背筋が、ぞくりと震えた。
「お姫さんは真っ新な絹織りみたいなもんだ。でもそこにインクを落とせば藍色の染みがつくし、血を落とせば真っ赤な染みがつく。視えないものを視てるうちに、あんたに色んな染みがつくかも知れない。そうしてるうちに、あんたがいつの間か真っ黒に染まっちまうんじゃないか…俺はそこが心配なのさ」
「………………」
翡翠は自分が責められたわけでもないのに、ばつが悪そうに黙り込んでいる。
そして他の───みんなも。
「でも、藍色の染みがつこうが、真っ赤な染みがつこうが、そこにほんの一滴、希望の色を落とせば、彼女が真っ黒に染まることもないですよね」
「!?」
「!!」
ツグミちゃんと翡翠が驚いた顔で私を見た。それは他のみんなも同じで、私の言った言葉に目を丸くさせている。
「彼女が真っ新な絹織りでそこにいろんなインクが落ちて染みになっても、きっと真っ黒には染まらないと思うんです。それに例え染まったとしても…彼女の絹織りを真っ白にしてくれる色がたくさん在るじゃないですか」
隼人達の顔を見て、微笑んだ。
「だから大丈夫。心配ないよ」
「…有難う、詩遠ちゃん」
ツグミちゃんが涙ぐんで嬉しそうに笑った。
「…ははっ!ははは!そうかそうか、希望の色な。それは妙案だな!」
「杙梛さん笑い過ぎです。
何かおかしなこと言いました?」
「いやいや、予想外の回答で素晴らしい。本当にお嬢さんはすげぇな、天才だわ。まるでどっかの王子みたいな台詞だったぜ」
「(そんな台詞は言ってないけど。)」
「少しあんたを甘く見てた。なんだ、お嬢さんはそういう人間なのか。気が強いだけの毒舌お嬢さんじゃなかったんだな」
杙梛さんは可笑しそうに笑う。
「あんたのことがもっと気に入った」
「気に入られても困りますよ」
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