第7章 ナイフと紺色の手帳-ヒヨクノトリ-
「あんた達はその男を悪人だと罵るか?
どうよ警察官。捕まえてぶち込むのか?」
「う……」
どうやら燕野さんも言葉がないらしい。
「お嬢さんはどう思う」
「!」
不穏な空気が流れる中、杙梛さんの視線が私に向けられる。
「今の話を聞いた上での返事だ。お前さんはそれでもその男を悪だと決めつけるか?」
「……………」
見方を変えれば全く状況は違ってくる。自分の欲のために犯罪を犯す者、それは完全に悪だ。
けれど杙梛さんの言うように体調を崩して働けなくなり、お金を無心しても断れ続け、切羽詰まってやってしまった犯罪。
"死にたくないから悪に手を染めた"
それが間違っていることだと分かっていても悪人を続けるしか生きる道はなかった…か。
「私は…」
表情を沈ませ、静かに答える。
「どんな理由であれ、罪を犯した人間はそれ相応の罰を受けるべきだと思います」
「!」
「………!」
ツグミちゃんと燕野さんの視線を浴びながら、私は構わず言葉を続ける。
「その男性は病気で働けなくて、お金を無心しても断られ、何も口にすることが出来なかったかも知れない。それでも…犯罪は犯罪です」
迷うことなく、ハッキリと告げた。
「もちろん人が罪を犯す理由は様々です。家族の為、自分の為、仕事の為。でもその男性は…自分が盗んだお米でご飯を食べて、本当に美味しいと感じるんでしょうか?」
どこか他人事のような口調で話し、一点をじっと見つめる。
「中には身勝手な理由で罪を犯して…いざ問いつめられれば必ずこう言うんです。"仕方なかった"って。仕方なかったから罪を犯した。そんな馬鹿げた理由ってあります?」
「詩遠ちゃん…?」
「自分の欲求を満たすために罪を犯したなら…私は絶対に悪を許すことはできません」
しん、と辺りが静まり返った。
そこで、はっとしてみんなの顔を見る。
ツグミちゃんと燕野さんと翡翠は驚いた顔をしていて、隼人と滉と杙梛さんは、どこか表情を固くしていた。
「まぁでも、人間なんて感情に左右しやすい生き物ですからね…もしかしたら善だと思うかも知れないし、悪だと思うかも知れませんね」
私はぎこちなく笑って、訂正する。
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