第1章 空の瞳の少女-トリップ-
「女学生なら誰でも読んでいるんだろうけど…私は読んでないんだ。あ、面白くないからとかじゃないよ?ただ私にはどうしても合わなくて…」
「そうなんですか…」
「主にミステリー小説を好んで読むかな。でも書庫にある本はほとんど読み終えてしまって…そろそろ新しい本を買おうかなって」
「でしたらうちに来ませんか?」
「え?」
「書庫にミステリー小説も沢山あるんです。もしかしたら立花さんがまだ読んでいない本があるかも」
「いいの…?」
「ええ、立花さんさえ良ければ」
「ありがとう久世さん!」
彼女の優しさに感動し、ガシッと両手を握りしめた。久世さんはそんな私に面を食らったようで、驚いた顔を浮かべている。
「貴女はとてもいい人だね!」
「そ、そんな…」
「すごく嬉しい!」
「(やっぱり笑うと可愛い。)」
「あ、でも…今日はこの後予定があって…。もし迷惑じゃなければ、久世さんの都合の良い日にお邪魔してもいいかな?」
「もちろんです」
「私のことは詩遠って呼んで」
「なら私もツグミって呼んでください」
「うん!ツグミちゃん!それと同い年なんだから敬語じゃなくていいよ」
「ええ、よろしくね、詩遠ちゃん」
少しお喋りをした後、私達はお互いに連絡先を交換し、その日は別れた。
とても楽しみにしていたの。また貴女に会えることを。読んだ事がない本に出会えることを。本当に、楽しみにしていた。
けどまさか…彼女に"あんな事件"が起こるなんて…。
✤ ✤ ✤
「おはようございます、お嬢様」
「おはよう」
「何か嬉しいことでもあったんですか?」
「どうして?」
「昨日からお顔が嬉しそうですわ」
使用人に言われて嬉しそうに笑う。
「ウエノ公園に行ったらとても素敵な女の子と出会ったの。今度彼女の家に遊びに行く約束をしたんだ」
「それは良かったですね」
「英吉利語の先生はもう来てる?」
「先ほどお越しになられました」
「じゃあ紅茶を部屋まで運んでくれる?」
「はい」
週に一度、特別講師を招いている。私は留学経験もあって英語は得意な方なのだが、今は英吉利語に挑戦中である。
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