第7章 ナイフと紺色の手帳-ヒヨクノトリ-
「本当に平気です。流石に彼の言葉に納得がいかなかったので言い合いになりましたが…余計に嫌われましたかね」
「彼には良い刺激薬にはなったさ」
「そうでしょうか…」
「でも君、怒らせると怖いんだね」
「す、すみません。自分でも大人気なかったと反省していたところです。少し言葉がキツかったのは自覚があったのですが…」
「僕は君を尊敬するよ」
「え?」
「君の言った言葉は正しかった。だからそんなに気に病まないでおくれ」
「紫鶴さん…」
「たとえ言葉遣いが悪くても、大人気なくても、僕は君を嫌ったりしない。そこだけは忘れないで」
「はい…有難うございます」
「もちろん僕はどんな君でも愛す自信はあるから遠慮なく本当の君を見せても構わないけどね」
「紫鶴さん、今はそういう話はしてないです」
「残念」
いつもの調子で私を揶揄う紫鶴さんをジト目で見遣り、ピシャリと言い放つ。
「少しでも落ち込んでいたら、傷付いている君の心の隙をついて、優しい男の振りをして口説こうと思ってたのに」
「『振り』で口説きに来ないで下さい」
「じゃあ優しくしたら口説いてもいいってこと?」
「全然違います。勝手に都合良く解釈するのはやめて下さい。それに全く傷付いてないので何もしなくて結構です」
呆れ返りながら竹箒で地面を掃いていると…
「おはようございます!ちょっと作戦室の方に来ていただけますか?」
玄関で翡翠が小さく手招きをしている。
「あ、うん!何か急用なのかな?」
「それが、僕も詳しくは分からないんですが、また新しい方が入るとかで…」
「え!?」
とりあえず竹箒を片付けて作戦室に向かうと、そこには一人の男性がいた。
「おはようございます!自分は警視庁保安部巡査、燕野太郎と申します!本日より皆様とご一緒させて頂くことになりました!よろしくお願い致します!」
「というわけなんだ、よろしく頼むぞみんな」
「よろしくね」
朱鷺宮さんと猿子さんが言う中、みんなが、ぽかんとしていた。
燕野と名乗った彼が身に付けているのは間違いなく本物の警察官の服だったからだ。
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