第6章 新しい住人-ショウトツ-
「俺は立花に何もしない。あんたの嫌がることも、あんたを傷つけることもしない」
「……………」
「ほら、もう少し」
勇気を出して指先を隼人の指先に近付けて、ピトッと触れることに成功する。
「触…れた…」
「やったな!触れたじゃん」
「隼人には触れる…」
「!」
驚きと感動が交ざった顔で独り言を呟けば、隼人は微かに頬を赤らめ、嬉しそうに笑う。
「(あれだけ体が拒否してたのに…何故だか分からないけど隼人は平気だった。)」
「指先だけでも大きな進歩だな。どう?あれだけ触れなかった男に触れた感想は。」
「驚いてる…というより、感動してる。だって知り合いみんなに頼んでも触れる以前に体が拒絶してたのに…隼人なら平気なの!」
「だから言ったじゃん。俺だったら触れるかも知れないって。試して良かっただろ?」
「うん!凄いね隼人は!」
「っ…………」
キラキラした眼差しを向けると、隼人は照れたのか、視線を逸らす。そしてまだ微かに赤く染まった頬を残し、顔を私に戻して笑う。
「じゃあ次な」
「次?」
「ハイ、俺と握手。」
「な、難易度が急に上がった…」
「確かにお前からして見れば難易度は上がったかも知れないけどさ…でも勇気を出すことが大事だと思うんだよ」
「ごもっともな意見…」
隼人が手を差し出す。先刻は手に触れることすら躊躇われたが、今なら───。
「頑張れ頑張れ」
「……………」
勇気を出して手を伸ばす。恐る恐る距離を詰めるが途中で止めてしまう。
「(男の人の…手…)」
「立花、顔が強ばってる」
「ごめんなさい…」
「だから謝らなくていいって。別に責めてるわけじゃない。ゆっくりでいいよ」
「うん……」
隼人は私が触れるまで待っていてくれている。先刻は指先には触れられたのに、握手となると緊張感が更に増し、身体が拒否反応を起こす。私は無意識に唾を呑み込んだ。
「(紫鶴さんの時はちゃんと握手できた。累の時だって…。だから大丈夫なはずなのに…。)」
「…やっぱりやめておこうか?」
「ま、待って!もう少し…!」
「分かった」
.