第6章 新しい住人-ショウトツ-
「(隼人は大丈夫。何もしない。)」
「おまじない掛けてやろうか」
「おまじない…?」
突然そんなことを言われ、キョトンとする。隼人はニッと笑うと私におまじないを掛けてくれた。
「"お前なら絶対にできる"」
「!…これが、おまじない?」
「胡散臭いかも知れないけどさ、多少の効果はあると思う。しかもそのおまじないの効果は永久だから切れることはない」
「私、おまじない掛けてもらったの初めて。……私なら絶対にできる。」
「そうそう。自分で念じる事も大事なんだ。じゃあおまじないも掛けたし、もう一回勇気を出してチャレンジだ」
「("私なら絶対にできる"…)」
隼人に掛けてもらったおまじないを自分の心の中でも唱え、勇気に変える。覚悟を決めた私はもう一度、隼人が差し伸べてくれる手に自分の手を近付けた。
「……………」
隼人も静かに私を見守ってくれている。まだ緊張感と恐怖感は残るが、掛けてもらったおまじないの効果が効き始めているのか、最初の時よりかは平気だった。
そして…恐る恐る伸ばした手が、隼人の手に触れることが出来た。
「触れた…」
「おまじない効果あっただろ。まぁ、ほとんどは立花が勇気を出した結果だけどな」
「(私、触れてる…男の人に。)」
「感動してる」
「だって…触れるとは思ってなかったから」
「このまま握っても平気?」
「う、ん……」
「あ、今怖いって思っただろ」
「手に触れただけでも精一杯なの…」
すると小さく笑みを浮かべた隼人が、ゆっくりと指先を動かして、私の手を優しく握る。
「っ………!」
驚いた私はビクッと身体を跳ねさせて、慌てて隼人を見た。
「ごめん。痛かった?」
「痛くはないけど…」
「これから少しずつ慣れていけばいいよ。焦らずゆっくり──さ」
「有難う」
お礼を言うと、彼の手に力が込められた。触れた手は熱くて──けれど決して不快ではなかった。
「俺は風呂に行くけど。ちゃんと暖かくして寝ろよ?じゃあ、おやすみ」
「おやすみなさい」
名残惜しそうに放れた手の温もりはまだ温かい。隼人が立ち去った後も私は先刻まで握られていた手をじっと見つめていた…。
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