第15章 『理想』を壊して
やがて着いた湖。
そこで繋いでいた手を離すと、切り込んだ。
「知ってるか? この湖は、違う世界に繋がってるらしい」
「え………? まさか、」
「あぁ、そうだ。お前の元いた世界に、だ」
そう言うや、彼女を湖に突き飛ばす。
(嫌ッ………! いやよ、ナポレオン………!)
沈んでいく彼女の身体。
「ずっと考えていた。お前になにをしてやれるかを。
俺を許すな。………そして、忘れてくれ」
彼の優しい微笑とその言葉だけが 沈みゆく身体でも捉えることができた。
目の前で白い光が弾け、彼女はその輝きに呑まれる。
やがてその光が消える頃には、彼女の姿は消えていて………。
(これでいい。これで………。)
軋む胸を、幻だとくり返し説き伏せる。
だけど彼女の零した涙が 脳裏に焼きついたように消えなかった………。