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君色に染まりて【イケヴァン長編◆裏】

第15章 『理想』を壊して


「ナポレオン、どこに連れていってくれるの………?」

アズリを馬に乗せ、駆けて。駆けて。


「さあ。だけど、お前もきっと気にいると思うが」

「そっか。ふふ………、楽しみだなぁ」

無邪気に微笑う彼女を見つめると、胸が軋む。



(ずっと探していた。お前の幸せはどこにあるかを………。)


「ナポレオン………?」

名を呼ぶ声にハッとなる。

頬に触れてくる、ちいさくても温かい掌。


「………何でもねえよ」

微笑んで、頬を撫でる。


「そう………。」

哀しそうに唇をかむ。そんな彼女を、いっそう強く引き寄せた。


「そんな顔するな」

額にキスを落とし、軋む胸を隠した。


やがて馬を止めると、先に降り立つ。

そして両手で彼女の腰を掴んで降ろした。


「………着いたぞ」

「わぁっ………!」


そこは、一面の花園。見渡す限り、純白のアイリスが咲き乱れていて。


「綺麗………。」

はぁ……。とため息とともに呟いた。


「一人になりたい時に、よく此処に来ることにしてる。

此処は静かで………、とても美しいからな」


「連れてきてくれてありがとう。本当に素敵なところね………。」


彼女は微笑う。

連れ出した『本当の理由』を知りもしないで………。



「ねぇ、ナポレオン。本当は、なにか遭ったんでしょう………?」


「何もねえよ」


立ち上がり、彼女に手を差し伸べる。

哀しそうにおもてを歪めながらも、その手を取った。




『漆黒の森』の奥深く、涙の湖を目指して。
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