第13章 愛しさを殺して
「モーツァルトが………、あいつがそんな事を………。」
苦悶をはらんだ声。その声に、ぱちりと彼女の瞼か開く。
「ナポレオン………?」
ゆっくりと起き上がった華奢な身体を、強くかき抱く。
「すまない、アズリ………。」
「ううん。もう大丈夫………だから、あなたまでそんな顔しないで」
微笑む彼女に、労るようなキスを落とす。
「じゃあ………、今度こそ俺は行くよ。またね、アズリ」
「う、うんっ」
後ろ背にナポレオンの視線を感じながら、部屋を出ていった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
逃げるように私室に入り、後ろ手に扉を閉めた。
そのまま、ずるずると座り込む。
「アズリ………。」
思考にこびりついたように消えない、彼女の艶やかな表情。
ナポレオンならば、彼女を任せられる。
………分かっているけれど、それでも。
「好きだよ、アズリ………。」
祈るように呟いた恋情は、夜闇に吸い込まれ消えた………。