第12章 甘美な旋律【★】
「アズリ、そこにいるの―――。
………っっ!!」
響いた声は、フィンセントのものだった。
振り向くと、驚愕に見開かれた蒼い瞳に 犯されている自身が映る。
「見てわからない? 取り込み中だよ」
「モーツァルト、彼女が嫌がっているよ。離してあげて」
柔らかな口調だけれど、そこには怒りに似た感情が見え隠れしていた。
「や、ああああぁ! フィン、セント………見ないでえぇ!」
彼女はすすり泣きながら、再度モーツァルトの腕の中から逃れようと試みる。
そんな彼女を見かねて、フィンセントは彼を突き飛ばした。
「嫌がる彼女に、こんなことをするなんて………!」
彼は拳を振り上げた。
「駄目よ、フィンセント!」
彼女は呟いた。
「わ、私は大丈夫だから………。
あなたまでそんな事しないで………。」
身体は震えているのに、微笑んで見せる彼女。
「なに言ってるんだよ!」
フィンセントはゆっくりと、掴んでいた胸ぐらを離した。
「ごめんなさい、アズリ………。
知っていたら、もっと早くに来たのに………。」
「ううん。助けてくれて、ありがとう」
微笑む彼女の膝裏に手を差し込み、抱き上げた。
「………部屋まで送るね」
「う、うんっ」