第11章 黒い月夜に
月下美人の花開くさまを見つめるそのおもてを、ちらりと見つめる。
星の光に照らされた彼女の灰の髪が きらきらと煌めく。
唇に優しいカーブを描き、風にさらわれそうになる髪を押さえていた。
「お前はなぜ、眠れなかったのだ」
ふいに、彼が問うた。
「祖母のことを………、思い出してたんです」
呟いて、静かに瞳を閉じる。
「お前の………?」
「はい。私にこの首飾りをゆずって、そのまま………。」
瞳を閉じたままの眦から、涙が溢れる。
「馬鹿ですよね、私は。
おばあちゃんは私がここに来ることを分かってて
私にこの首飾りを託したのかもしれないのに。
それでも祖母のことを、嫌いにはなれないんです」
瞼を開くと、そのおもてを儚い微笑で彩った。
彼はそっと目元をなぞり、その雫を拭う。
「お前はお前の知るその女を信じていろ。
お前ならば、きっと………。」
一瞬だけ目元をかすめた唇に、ほんのりと頬が染まる。
「………ではな」
ジャンヌは微笑みを残し、中庭を去っていった。