第4章 したたかな花【★】
「すまない、………アズリ」
その声は、たしかな意志を感じさせる。それでいて、自責の響きも宿していた。
「ナポ、レオン………?」
腕の中で身じろぐ気配がして、少し抱擁を解くと。
「どうして………、あなたが謝るの?」
そのおもては、儚い微笑に彩られていた。
なにかを紡ごうとした唇に、彼女の人差し指が触れる。
「あなたのせいじゃないよ。
それに私は………、伯爵の意志に従おうと思うから」
そう、呟いた。………きちんと微笑えているか、確証もないままに。
「思い直したんだ………、伯爵は私を此処に置いてくれたから
逆らうなんて駄目なんだって。
それに………、私は私の知ってるあなた達を信じたいの」
告げた直後、溜まっていた雫が伝った。
(こいつは………、本当に、)
彼女の言葉はどうやら本心のようで。
目元に溜まっていた涙を舐めとり、キスを落とした。
「あッ………。」
ぴくん、と彼女の身体が震える。
膝裏に手を差し込み、抱き上げた。
「え………、ナポレオン………!?」
「俺を………、あいつ等を信じるんだろう。
だったら抱えられてろよ」
にやりとたしかな意志を感じさせる笑み。
「う、うん………。」
おずおずと、彼の首に腕を回す。
それを見届けてから、屋敷の中へとつま先を目指した。