第5章 ◆君が居れば、何も要らない*信長、秀吉、家康*
《君が居れば、何も要らない 信長ver.》
「信長様っ……!」
雑踏の中、俺の視界の正面で佇む小さな姿。
それは、そこだけが鮮やかに色づいたように、ハッキリと俺の目に映り……
戦地から帰ってきた俺の目に、痛い程に焼き付いた。
そしてその姿は、人混みをすり抜け走ってきて……
俺が軽く腕を広げると、なんの躊躇いもなく、腕の中に飛び込んできた。
「舞……」
「おかえりなさい、信長様……!」
「ああ、今戻った」
「お待ちしておりました……!」
胸にしがみつき、小さく肩を震わせながら、必死に言葉を紡ぐ舞。
嬉しいのか、安心したのか。
きっと…今まで怖かったのだろうな。
それを思うだけで、愛しさが溢れ出す。
────戦とは命の奪い合い
強い者が生き残り、弱き者は命を散らす。
それは、いつ我が身に降りかかるか解らない。
俺は大望を果たすまでは、決して死ねない。
だから死ぬ気もない、それは舞も解っているだろう。
けれど…理解していても、感情は別物である。
少し血を流すだけで、涙を零す舞の事だ。
きっと、目で生きている事を確かめなければ、安心出来なかったのだろう。
「貴様のために、戦から命を持ち帰った。だから、もう安心しろ。俺はここにいるだろう」
小さな身体に腕を回し、背中を優しくさすってやる。
すると、舞はその顔を上に持ち上げた。
黒真珠の瞳に、涙をいっぱい溜めて……
ああ、不安だったのだな、身を案じていたのだな。
それが解り、少し胸が軋んだ。
ならば──……
これから、その顔を笑顔にしてやらねばなるまい。
俺なりのやり方で。
舞を目いっぱい甘やかしてやらねば。
「舞、俺が戦に行く前に、貴様とした約束を覚えているか」
「え……?」
「俺はこう言った筈だ。戦から帰ってきたら、飯も酒も、風呂も要らない。その代わり……」
舞の顎を指で掬う。
そして、つ……と唇を親指でなぞった。
「────その先は、言わなくても解るな、と」