第9章 新しい筆のおろし方02
「家康、おかえりなさい」
「ただいま」
城から戻り自分の部屋に戻る家康を見送って
お茶の用意をする
家康の部屋に行く頃には
着替えを済ませた家康が腰を下ろしたところだった
「おいで」
「うん」
近くの文机に持ってきたお茶をおき
いつものように家康の膝の上に腰を下ろす
それを後ろから抱きしめられる
「今日もお疲れさまでした」
「ん」
あの日から家康の膝の上に座っていることが多くなり
あれだけ緊張していたのがウソのように
今では寝てしまうこともあるくらい
家康の側に癒しを感じるようになっていた
数日後
城に呼ばれて天守に行くと既に皆がそろっており
自分が一番最後のようだ
「葵、こっちにおいで」
と家康が声をかけてくれる
「うん」
いつものように家康の足の上に座り、背を預ける
ふう、ここに座ると安心する
「クッ随分としつけたものだな」
「?」
ふと周りを見回すと
唖然とした顔でこちらを見る者
面白ものを見るような顔をしている者 が目に入る
はっ間違えた!!いつものとおりここに座っちゃった!
自分が間違えた事に気が付き、慌てて家康の隣に移動する
「す、すみません」
ちらっと家康に目を向けると
ムスっと不機嫌そうな顔をしている
でも良く見ると耳が赤いような…
「いや、違います!間違えたんです!失礼しました。」
「随分慣れた動きだったな。いつもそうしているようだ」
「そうかそうか」
「家康に先を越されるとはなぁ」
「お二人は相変わらず仲が宜しいですね」
顔から火が出るくらい恥ずかしい
真っ赤な顔をして項垂れていると
「揶揄うのはその辺でやめてもらえますか?
さっさと進めてもらえませんか」
不機嫌さを隠しもしない声色で家康が言い放つ
面白そうに見ていた信長が
「まぁよい。して、あの件はどうなった」
…
粛々と軍議が進められていく
「では、下がれ」
「はっ」
「葵、いくよ」
「うん」
家康が葵の手を引いてさっさと出てく
「あれは随分甘やかせているようだな」
金平糖を口に頬りながら脇息に身体を預ける信長がニヤリと口元をあげる
こちらにも効果は出てきているようだな
流石の頑固者も動き出したか
続
【次ページあとがき】