第9章 体育祭
そこから声が聞こえなくなり、しばらくしてこちらに向かってくる足音が聞こえた。
僕は何も知らないフリをして、焼却炉にゴミ袋を投げ入れた。
「はあ……おわっ!!え、黒子っち!?」
「ああ、黄瀬くん。グーゼンデスネ」
「…ちなみに黒子っちはいつからここに?」
「ついさっきです。だから黄瀬くんが青峰くんに、久瀬さんを奪う宣言をしていたことなんて全く知りません」
「黒子っちッ!!!」
「すみません最初から聞いてました」
ぺこりと頭を下げれば、黄瀬くんの生気のない溜息が頭上から聞こえた。
「黒子っち、勘違いしないでね?」
「え?」
「あれは俺なりに青峰っちにハッパかけたんスよ!早くしないと盗っちゃうぞ☆って」
「………はあ」
「別に本当に奪おうとか思ってないし、…まず無理だし」
顔を俯かせた黄瀬くんにどんな言葉をかければいいのか迷っていると、黄瀬くんがパッと顔を上げた。
「それより、黒子っちに聞いてほしい話があるんスよ!」
「何ですか?」
「俺、青峰っちに負けた瞬間なんか清々しい気分がして、何でそんな気分になったのか自分じゃ分からないんス」
「抜かれてしまったのに清々しいんですか?」
「う~ん…少しは悔しかったんだけど、何故か嬉しかったんスよ。青峰っちが俺の前にいることが」
何でッスかね、と笑う黄瀬くんの疑問の答えに僕は何となく気づいた。
けれど、
「…すみません、僕にも分かりません」
今の黄瀬くんには言わないでおこうと思った。
゛黄瀬くんは
青峰くんに憧れてるから
青峰くんが負けなかったことが
嬉しかったんでしょう?"