第8章 熱です
「ここに黄瀬来たのか」
「え…うん」
「それで、お前も部屋に入れたのかよ」
「?…うん」
「…密室で男と二人っきりになるって、どういうことか分かってんのかよ」
あれ、大輝まさか勘違いしてる?
話の流れからして、黄瀬が1人で来たと思ってるよね?
「え、大輝、」
「何でよりによって黄瀬なんだよ!一番ダメな奴じゃねーか!」
「一番ダメなの?…じゃなくて!大輝、」
「プレゼントなんか貰って、物に釣られやがって!」
「はあ!?釣られてなんかないし!…じゃなくて大輝、黄瀬は…」
「おばさんも俺以外の男入れたりすんなよ…!」
いつまでもグチグチ言いそうな大輝に私はいい加減に誤解を解かないと、と思い声を張り上げた。
「一人で来たんじゃないってば!」
「…は?」
「さつきと黒子くんも一緒だったの!黄瀬が一人で来たんじゃないから!」
ポカンと口を開け数秒固まった大輝は、大きく溜息を吐き急にヘナヘナと座り込んだ。
「おま…早く言えって…」
「だって、大輝が話すの止めないから…」
「俺、バカみてーじゃん」
「大丈夫、元々バカだから」
「おい瑠衣!」
鋭く睨みつけられても、あんな姿を見た後じゃ微塵も怖くない。
むしろさっきからニヤニヤと笑いが止まらない。
大輝があんなこと言うの初めて知った。
長く一緒にいるのに、まだ知らないことがあるんだなぁ。
…ふふっ、なんか嬉しい。
「大輝、私ゼリー食べたい!」
「あ!?俺に買ってこいってか?」
「熱の時くらい良いでしょ?ほらほら、今すぐ!」
「クッソ…しゃーねーな、今回だけだぞ」
「本当!?やった!」
ゼリーゼリーと連呼する私の頭を大輝はわしわしと撫で回した。
その時の彼の顔が
とても優しく
穏やかだったことを
彼女は知らない―