第5章 透明少年と本
「確かにこれなら1組からは見えないけど、後ろからは丸見えだよ?」
「まじっスか!?」
「だーっ!立ったら意味ないでしょ!」
黄瀬の肩を思い切り押さえつけてしゃがませる。
「そんなに怒らなくても…」といじける黄瀬に一つ溜息を吐いて、私は紙袋からチョコを取り出した。
「はい、これあげるから元気出せ」
「え…チョコだぁ!瑠衣っちありがとうっス!」
「えー、瑠衣ちん俺は~?」
「勿論あるよ、はい」
「おっうまそ~ありがとー」
「どーも。じゃ、黄瀬はあの子たちの、ちゃんと全部貰うんだよ」
「はいっス…」
明らかに疲れきっている黄瀬を気の毒には思うが、私にはどうにもできないことだ。
黄瀬、頑張れ笑
これで紙袋に残ってるチョコはあと一つ。
渡せる気が限りなく0に等しいけど作ってしまったチョコ。
放課後になり、クラスメートが次々と帰っていく。
男子によって違うテンションの落差が現実を見せてくれている。
帰り際、体育館に行く黄瀬とすれ違った時、両腕に重そうな紙袋を3つも下げていた。
「太るね」と言ったら「瑠衣っちのは食べるっスよ!」と返された。
ここだけの話。
黄瀬のクッキーだけ唐辛子入り。
夜になっても雪は止む気配がない。
いつもとは違う真っ白な世界を窓からボーっと眺めていると、コンコンと部屋のドアがノックされた。
ドアを開けると、制服姿のお姉ちゃんが立っていた。
「お姉ちゃん、電車止まってなかった?」
「止まってたよ!もー大変っ…それより、外に大輝いるよ」
「…え!?」
「アンタのこと待ってるみたいだから、行ってあげなよ」
お姉ちゃんに促されるまま私は階段を駆け下り、冷蔵庫からチョコを取り出して、玄関のドアを開けた。
「おっせーよ瑠衣…俺を凍死させる気か…」
「大輝なんで…」
「あぁ?テメエ、さつきのチョコだけ食って俺に死ねっつーのかよ」
大輝は寒さで真っ赤になった手を私に向かって差し出した
「俺はお前のもなきゃダメなんだよ」
「……っ!」
そんなこと言われちゃったら渡すしかないじゃん…。
私は大輝の手にそっとチョコを置いた。
ホワイトバレンタインの
―キセキ―