第5章 透明少年と本
「青峰くん、どうして図書室に来たんですか。いつもなら絶対行こうとしないのに」
「それは…」
「久瀬さんを探しに来たんですか?」
青峰くんは目を見開いた。
僕の言ったことが図星だったようだ。
「久瀬さんならもう行ってしまいましたよ。少し遅かったですね」
「…何でお前は分かっちまうんだよ」
「青峰くんは分かりやすいですから」
そう言い、ちょっと微笑むと青峰くんも笑い返してくれた。
青峰くんと笑い合うなんて久しぶりだ。
「久瀬さんなら自分のクラスにいると思いますよ」
「いや、別に大事な用があったわけじゃねーから」
用がないのに会いに来たんですか。
…その方がよっぽど冷やかしたくなりますね。
「そういえば、黄瀬くんからのメール見ましたか?」
「ああ、瑠衣がメッチャ足速いっスってやつだろ?そんなの当たり前だっつの。
ガキん頃俺と競走して競ったのあいつだけなんだからよ」
「昔から仲が良いんですね」
「…今は微妙かもな」
青峰くんが寂しそうに呟いた。
眉を顰めて俯いている。
青い髪が彼の表情を隠していたけど、僕には分かった。
こんなに自信のなさそうな彼を見るのは初めてで、僕は自分の目を疑った。
思わず聞き返すと、青峰くんはふっと笑い、何かを言いかけた。
その時、昼休みの終わりを告げるチャイムがちょうど鳴った。
「…教室戻ろうぜ」
「青峰くんっ、何を言おうとしたんですか?」
「…何でもねえよ」
ぶっきらぼうに告げ、青峰くんは足早に立ち去っていった。