第1章 記憶喪失
そして私に耳元で
小さく呟くのだ。
「記憶さ、戻ったよ。
やってるときに。だから今のは俺に意地悪した罰。」
「え、えぇ!?嘘、え、…本当に?」
前のめりになる私に
彼は悪戯した子供のようにニッコリ笑った。
「うん、思い出したから。
…で?
何で言わなかった?」
ゆっくり息を吐いて、
私をみている。
ピリッと緊張が走った。
「…私が無理して付き合ってもらってたから、嫌がると思ったの。無理強いをしたくなかったの。」
「いや、記憶なくても
嫌がらなかったと思うよ。
それに俺は無理して付き合ったことないよ。一度も。
告白された時だって
嫌じゃなかったからね。自分の気持ちに気がついてなかっただけだよ、俺が。
それに泣くほど好きなら
ぶつかってこいよ。ばか。
ちゃんと言えよ。」
ハイハイ、すみませんねーと
可愛くない返事を返して
カカシに背を向けた。
「恐かったの…一番の理由はそれ。」
「そっか…。悪かったな。嫌な思いさせて。」
ギュッと背後から抱きしめられて、私は居心地が良くて目を閉じた。