第10章 哀色からの脱却
「私は、ロナルドについて行きたい」
ロナルドの顔は相変わらず、哀しげだった。
こんな表情、彼には全く似合っていない。
どんなときだってもっと笑い掛けてくれれば良いのにと、冷静に考えている自分がいた。
「ともあれ、行動するなら早い方が良いわ」
エマは私に荷物を持たせてくれた。
中には衣類などの生活に必要な物が入っているようだ。
エマの部屋を出ると、協会内をしばらく歩くことになった。
通ったことのない、真っ暗な道をずっと進んで行く。
「総務のワタシ達しか知らない抜け道が、この中にはいくつもあるのよ」
エマがそっと教えてくれた。
「げッ、この抜け穴……」
私達の目の前に、大きな空間が広がっていた。
その空間というのが、例えるならブラックホールのような、異様な空気の塊のような物だった。
「おい、これクロエ通れないだろ」
「アナタがいれば大丈夫だと思ったのだけれど」
「っつーか、本当にあったんだな」
「満月の夜にしか現れない人間界への抜け穴なのよ」
エマが私の肩に手を置いて言った。
「大丈夫よ、クロエ。月もアナタを応援してくれている。ワタシも一緒についていてあげたいけれど、こちら側の対処を任されるわね」
そしてエマは、ロナルドに目で合図をした。
「クロエ。少し、ほんの少しだけ、怖いって思わせるかも知れないけど、大丈夫。俺がいるから」
初めて会ったときと同じ台詞だった。
何より安心する声。彼といられるなら、多少の恐怖も乗り越えられる気がした。
「さぁ、あまり時間がないわ。急いだ方が良さそうよ」
月明かりがこの場所に射している時間でないと開かない抜け穴らしい。
最初に見たときよりも狭くなっていた。
ロナルドは私の手を取り、強く握った。
「せーので飛び込むよ。俺の手、しっかり掴んでて」
ロナルドの合図で、私達二人は空間の中へ飛び込んだ。