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【黒執事】スノードロップ【死神・裏】

第10章 哀色からの脱却


「いいわ。まず、こちらでわかっていることを話すわね。一つ目に、何故ワタシ達があの部屋を突き止められたかってところなんだけど」

私はエマの顔を見て聞いていた。

「総務の資料を調べてみて判明したのだけれど、実は使用目的が不明確なまま、あの部屋を使っていた課の記録があってね……」

ふとロナルドの方へ視線を向けてみた。彼は立ったまま腕を組み、横を向いている。その腕には力が込められており、微かに震えていた。

「その記録にあった課っていうのが……」
「……管理課」

敢えて私から発言した。
どんな風に思われたとしても、この二人には包み隠さず話すべきだと思った。

自分の口から彼の名を出してからの私は、妙に淡々としていた。
いつ溢れてもおかしくなかった涙はどこかへ行き、先程はかいつまんで話したことも、具体的に話せるようになっていた。
エマは私の冷静さに驚いた様子を見せつつも、私が彼にされたことを最後までしっかりと聞いてくれた。
ロナルドは相変わらず、こちらを向くことはなかった。
話し終えた私は、気持ちがスッと軽くなったように感じていた。
だが、それは楽になったというよりも、大切な物を自ら破棄してしまったような感覚だった。
虚無感というのにも近いだろうか。
モヤモヤとした糸が、心の中で絡み合っているような感じがした。

私は無表情で前を見据えていた。
エマがロナルドに何か話し掛けているのが横目で見えた。
しばらくロナルドは動こうとしなかったが、何度かエマが訴え掛けるようにすると、ゆっくりこちらを振り向いた。
その表情は酷く哀しげだった。
少しずつこちらに近付くと、無表情のままの私を憐れむように、優しく抱きしめた。
私が辛いとき、ロナルドは何度もこうして私を包み込んでくれた。
彼の温もりを感じているうちに、そのときの感情が蘇ってくるようだった。

「……クロエ。ここからまた、逃げよう」
「どこへ?」
「今度はもう少し、見付かり難い場所に。……良い宿は用意できないかも知れないけど」
「逃げられるの?」
「とりあえずの当てはある。……つっても、こういうことの繰り返しで、いつもクロエを傷付けてるんだよな、俺」
「私は、ロナルドに傷付けられたなんて思ったことないよ」

私は抱きしめられていた体を上げ、ロナルドを見た。
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