第10章 哀色からの脱却
「一先ずここで休ませてあげましょう」
「あ、じゃあ俺は戻った方が良いね」
「何言ってるの! アナタがついていてあげなくちゃ!」
ここはエマの部屋の前らしい。
エマに促され、私とロナルドは中に入った。
中は可愛らしい色で統一され、綺麗に整頓されている。
「ここへ座って。寝転んでもいいから」
そう言われ、ベッドに腰掛けた。
エマが用意してくれたホットミルクを受け取り、少しずつ飲んだ。
「ワタシ、ちょっとあの部屋を片付けて来るわ。鍵も見つけにくい場所に保管しておきたいし」
行ってくるわね、と言って、エマは部屋を出て行った。
ロナルドと二人きりになったが、どうしてもウィリアムとの出来事を思い出してしまい、彼とどう話して良いかわからなくなっていた。
「……クロエ。俺……」
ロナルドはベッドに座っている私の前にしゃがみ、下を向いていた私の顔を見て言った。
「俺、自分で言ったこと、全然出来てないよな」
私は少し顔を上げた。
「全然クロエのことを守ってやれてない。……沢山、怖い思いしただろ」
ロナルドの優しい声が心に響いてくる感じがして、また涙を流してしまった。
それを見たロナルドは立ち上がり、ベッドに片膝を付いて私を抱きしめた。
「もう、離さないから」
私は静かに泣きながら、何度も頷いた。
落ち着いて少し経った頃、エマが部屋に戻って来た。
「クロエ。話しにくいこともいっぱいあるでしょうけれど、何があったか聞かせてもらえるかしら」
死神特有の黄緑色の目をまっすぐに向けられてしまうと、逃れられない気がしてしまう。
あの部屋で起きた出来事を、かいつまんで二人に話した。
話している最中は、二人の目を見ることが出来なかった。
エマはこちらを向いて真剣に聞いてくれているようだったが、ロナルドは私の方を見ていなかった。
彼にとっても、聞きたくない内容だっただろう。
「話してくれてありがとう。……それで、このことに関わっている死神は、一人なのかしら」
「食事を持って来てくれた死神は、何人か。……でも、私から話を聞き出したのは……」
彼の名を自分の口から出すことが出来なかった。