第9章 青い霧
今度は腕を強く掴まれ、引きずられていく。
その直後、両腕を何かで縛り上げられた。
先程ウィリアムが準備していたのは、天井から出た杭に掛けて垂れ下げた、長い鎖だった。
私の腕は、その鎖に縛られている。
鎖で引き上げられ、寝転がった状態から無理矢理床に座らされた。
鎖の巻かれた腕は、強制的に頭の上で固定されている。
必死に抵抗したが、彼の力には及ばない。
「大人しくしなさい」
その一言で済まされてしまう。
これから何をされるかわからないこの状況で、無防備な体勢にさせられていることに恐怖を感じた。
涙が出てきた。まただ。泣きたくなどないのに、勝手に出てくる涙に腹が立った。
「さて、まず意思確認です。私の質問に答える気はありますか?」
私はウィリアムを睨んだ。
「おや。そういう目も出来るのですね。しかし、そんな涙目では迫力に欠けますよ」
ウィリアムは片手で私の首を掴んだ。
「答える気は無いということですね?」
何も言わず、睨み続けた。
「それすらも、答えませんか」
首を持つ手に力が入る。
呼吸が上手く出来なくなった。
「ここへ来てから、頑なに黙秘し続ける理由は何ですか。一昨晩は、答えようとしていたように見受けられましたが」
ウィリアムは手を戻す。首が解放され、咳込んでしまった。
「ロナルド・ノックスの意志ですか」
呼吸が落ち着いた私は、意図的にウィリアムから目を逸らした。
「貴方はあの死神と数週間を共に過ごしてきたようですが、一体アレの何が貴方をそうさせるのです?」
私は目を逸らしたまま黙っていた。
「聞いていますか」
無視をし続ける。
「聞きなさい!」
するとウィリアムは片方の手で私の顔を掴み、自分の方へ向けた。
彼の目は、ロナルドと同じ黄緑色をしているが、ロナルドのような温かみは一切感じられなかった。
「無知蒙昧で女としての悦びも知らないような貴方が、何を欲してアレと一緒にいたというのか」
「……そんな!」
「知っていると言うのですか?」
ウィリアムの手が顔から離れる。
強く掴まれていた為、頰がじんじんとした。
「グレル・サトクリフに言われていませんでしたか。“貴方は何も知らない”と」
「そんなこと……」
「しかし貴方の中では、異性交遊での最終段階はキスだということになっていたはずです」
「違う!」