第9章 青い霧
「違うのですか」
またウィリアムの冷たい声が私の耳に響く。
これ以上、どうしたら良いのかわからなかった。
ウィリアムの次の行動に身構えていると、彼は私を、頭から頰に向かって優しく撫でた。
先程までの横暴な振る舞いとは真逆の行為に、私は身震いした。
しかし、彼の表情は変わらず冷たいままだ。
「私には、貴方について知る義務があるのです」
今度は両手で私の頬を包み込んだ。
「わかってもらえますね?」
優しくも聞こえるその声が私の体を支配するように、身動きが取れなくなっていた。
ウィリアムは私から一度離れると、何かを内ポケットから取り出し、自分の口に含んだ。
そして再び私の元へ近寄り、私の頭と顎を抑え、キスをした。
私は自分の身に何が起きているのか理解出来なかった。
ただ、一瞬、息が苦しくなって無意識に口を少し開けてしまったが為に、その先に地獄を見ることになる。
私の開いた唇の隙間から、ウィリアムの舌が入り込んで来た。口内が彼の舌によって掻き乱される。
先程彼が自分の口に含んだ物が一緒に入って来ていた。
小さな固形物だった。舌に触れた感じからして、丸い何かだろうか。
得体の知れない物が口の中にあることへの不安感と、執拗に舌を絡められることによる妙な感覚が入り混じる。
部屋の中に、彼と私のリップ音が響き渡る。
脳が麻痺するようだった。
「飲んで」
キスされたまま、ウィリアムにそう囁かれる。
そして、ずっと口の中で泳いでいた固形物を、反射的に飲み込んでしまった。
その直後、ウィリアムの舌が私の口から抜かれた。
私は息を切らし、呆然としていた。
それからしばらくの間、放置されていた。
ウィリアムは私の横に立ち、一言も発することなく私を監視していた。
私はウィリアムの方を見ないように、目線を逆側に向けた。