第9章 青い霧
「マジで俺、クロエのこと一度も守ってやれてない気がする」
「そんなことないわよ。大前提として、ロナルドがあの子をそのままにしていたら、本当に危険な目に遭っていたかもしれないじゃない」
「でも俺について来たせいで、怖い思いをしてるかもしれない」
ロナルドの頭の中には良くないイメージばかりが浮かんでいた。
「だけど、取調べなんでしょう? これまでの話を聞かれているだけじゃないの?」
「ある事ない事、無理に聞き出されてるんじゃないかって……」
「ロナルド、考え過ぎよ! あんまり悲観的になっちゃダメ!」
「そうだけど……」
ロナルドは変わらず下を向いていた。
「クロエのこと、本当に大切に思っているのね」
下を向いたまま、ロナルドは頷く。
「クロエのこと、大好き?」
また頷く。
「クロエのこと、愛してる?」
少し間をあけて、小さく頷いた。
「うん! わかった! ワタシが出来る限り彼女の今の様子を探ってみる。だから、元気出しましょう! いいわね?」
ロナルドは少し顔を上げて前を見た。
エマの位置からは、彼の目が潤んでいるように見えた。
続きは明日、と言われたその翌日の夜、ウィリアムは部屋の中央付近の天井に、デスサイズを伸ばしていた。
ハサミ状になっているデスサイズの先で、何かを掴んで引き出している。
それは金属製の、先端が輪っかになっている杭のような物だった。
昨日のことを思い出して怖くなった私は、ベッドの端で膝を抱え、顔を突っ伏した。
何やら金属が触れ合うような音が聞こえてくる。
ジャラジャラと、長く響く音だった。
「クロエさん」
ウィリアムが私の名前を読んでいる。
「そんな所へ座っていないで、こちらへ来て下さい」
相変わらずの冷たい声だ。
動こうとしない私を見て、ウィリアムは大きなため息を吐いた。
私は膝を抱える腕を、ぎゅっと強める。
「いつまで、そうしているつもりです?」
私は答えなかった。
するとウィリアムは、私の元へ来ると片手で私の髪を掴んで顔を上げさせた。
「だんまりを決め込むのも、いい加減になさい」
髪を掴んだまま、ベッドから引きずり降ろされる。
「っ……痛い! やめて!!」
ウィリアムは私を床へ転がした。