第1章 出逢い
この間に頭の中を整理したい。
まず、私の名はクロエ。クロエで間違いない……はず。
色々なことがありすぎて、それすらも自信を持って言えない自分がいた。
次に、私が置かれていた状況。少し前まで路地裏に仰向けで倒れていた。一体何があってそのような事態になったのだろう。
考えてはみたが、思い出せそうにない。
思い出せないものは仕方がないので、その後起きた事について考えてみる。
目が覚めた私に声を掛けてきたのはロナルドだった。
そもそも彼は何者なのだろうか。今思い返してみても妙だと思える言動に、この場所。
何もかもがおかしいのだ。ここへ来るまでの、あの体感したことのないようなスピード。
乗り物に乗っていたという訳でもなさそうだし、彼の全速力だろうか。それとも、まさか空を飛んでいたとか……。
考えてみたは良いものの、やはり何も答えは出てこなかった。
そうこうしているうちに、ロナルドが戻ってきた。
こちらへ手招きをしている。
私は立ち上がり、彼の元へ向かった。
彼に連れられ、建物の裏口と思しき扉から中へ入ると、そこは薄暗い廊下のようになっていた。
その先に、人が立っているのが見える。
「ふふっ」
その人物は、笑みを浮かべていた。どうやら女性のようだ。
「ハァイ!可愛い女の子!」
「え?」
「あなたお名前は?」
「あ、えっと、クロエです」
「クロエちゃんね!ワタシはエマ!よろしくね」
エマと名乗る女は、背が高く、縁のない横長の眼鏡を掛けていた。
私は彼女の意外なテンションに面食らった。
「こいつ、おばちゃんみたいだろ?」
「レディに向かって失礼ね! ロナルドが女の子連れ込むって聞いて、どんな子かなってワクワクしてたらこんな可愛い子だったんだもの。テンションも上がるわよ」
「連れ込むってなんだよ! 勘違いさせるようなこと言うなよな。ちゃんと説明しただろ」
「わかってるって。ムキになっちゃって、やーね」
エマはくるりと私の方へ向き直った。
「クロエちゃん。事情はよくわからないけれど、お困りのようね」
「は、はい」
「ワタシについて来なさいな」
またくるりと方向転換した彼女は、スタスタと歩き始めた。
進んだ先の両壁に、いくつか扉があるのが見えてきた。