第7章 存在価値と愛

「そっかー。俺、またクロエの初めてもらっちゃったなー」
「あんな強引なの、カウントしないもん！」
「ふーん。じゃあどんなのなら良いの？」
「そ、それは」

私は答えに詰まった。

「もっかい、ちゃんとしたのする？」
「え！？」

ロナルドはまた笑った。

「ウソウソ！！ さっきのはマジでごめん！ 俺も必死だったからさ」

彼はそう言いながら、仰向けになった。

「なかったことにしようね」
「……しない」
「え？」
「なかったことになんて、しないもん」

私はロナルドの腕をつかんだ。

「……でも、さっきのはやっぱりカウントしない」
「どっちなんだよ」
「だから……！ その」

ロナルドは再びこちらに体を向けた。

「……ちゃんとカウントできるやつ」
「うん？」
「ちゃんとした……キス、して」

下に向けていた私の顔を、ロナルドの手が優しく前を向かせた。

「本当にいいの？」
「……うん」
「どうして？」

まさかそんなことを聞かれるとは思っていなかった。
しかし、ここまで来たら引き返すことは出来ない。

「……私は」
「うん」
「ロナルドが」
「うん」
「……ロナルドのことが、大好きだから」

恥ずかしさで顔が熱くなった。泣きたくもなった。
そんな中、ロナルドが言った。

「それ、ずっと聞きたかった」
「え……」
「俺も、クロエのこと、大好きだよ」

私の顔を持ったまま、彼が近付く。

「愛してる」

彼はそう言って、私の唇に優しいキスを落とした。
一度離れ、お互いの顔を見つめ合う形になる。
目の前の彼のことが、愛おしくて仕方なくなっていた。
お互いに惹かれ合うように、もう一度キスをした。
先程のよりも少しだけ深く、長いキスになった。
唇を離すと、ゆっくり優しく頭を撫でてくれた。

「これ以上は、ヤバイ」
「……そうなの？」
「うん」

そう言った彼は、私に毛布をかけ直してくれた。
こうして私のファーストキスは、死神に奪われたのだった。
余韻に浸りながら、二人は眠りについた。