第7章 存在価値と愛
ロナルドは唇を離すと、まだ震えが残る私の体を強く抱きしめた。
「クロエが死んだら、俺が哀しむだろ」
私は落ち着きを取り戻していた。
ロナルドの優しい声に、涙だけが静かに流れる。
「俺にとってクロエは、特別で、大切な存在なんだから」
「……うん」
「俺の為に、そんな哀しいことは言わないでくれよ」
「……ごめんなさい」
抱きしめていた手を放し、私の両肩に手を置いたロナルドは、にっこり微笑んだ。
「わかればOK!」
そして彼は私の涙を拭ってくれた。
「こんなに泣いたら、枯れちゃうぞ?」
「……うん」
「今日明るみに出た真実がどうであれ、ここにいるクロエは間違いなくクロエだよ。今回のことは、また少しずつ調べていけば良い」
「……うん」
ロナルドは毛布を整えた。
「さ、寝よう。明日も回収があるからね」
二人で一枚の毛布の中に入る。
私は冷静になってつい先程の出来事を思い出してしまった。
眼鏡を取ったロナルドが私の様子に気付く。
「どうかした?」
「え!? 何でもないっスよ!」
「こういうときのクロエは、何でもなくないんだよな。知ってる」
「え……うーん……」
私は手で自分の口を抑えた。
「あ。もしかして、さっきの?」
ビクッとして、目だけロナルドの方へ向けた。
ロナルドは変わらず余裕そうだ。
「クロエ」
「な、なんスか!」
そんな私を見て、ロナルドは笑っていた。
「またそうやって、私のこと笑う……」
「ごーめんって。で、どうしたんだよ」
「……さっきの……」
くるっと体ごとロナルドの方へ向いて言った。
「私の……初めての……」
「なーに?」
ロナルドは私に顔を近付ける。
「あ、いや、その……」
「んー?」
彼は少し意地悪な笑顔を浮かべていた。
「やっぱりなんでもない……です」
「なんだよー。言ってごらん?」
「……さっきのが、私の初めての……だったので」
ロナルドは私の頭に手を乗せた。
「初めての、何?」
「だ、だから!」
「何?」
自分だけ余裕をなくしていることが、悔しくなった。
「……ス」
「ん?」
「……キス」
そのワードが自分の口から出たことに、恥ずかしくなってしまった。