第7章 存在価値と愛
深夜、ベッドの中でロナルドが深刻な様子で語り出した。
「さっき俺、クロエの家族に会ったじゃん」
「……うん」
「あの家に住んでる人全員の情報を教えてくれって言ったんだけど」
彼は、間をあけて続けた。
「その中に、クロエの名前がなかった」
「……え?」
「両親も妹も、伯母さん夫婦とその娘もいたのに、クロエの情報だけ何もなかった。名前を出して聞いてみても、そんな子は知らない、うちにはいない……って」
視界が狭まっていく感じがした。
「昨日張り込んだとき、10歳くらいの女の子が家に入ってっただろ。……あの子がいて、うちの娘はこの子と妹だって言ってさ」
「……そんな」
「どうしてそんなことになっているのか、それ以上は調べられなかった……ごめん」
私の存在がないことになっている。
体が勝手に震えていた。止めたくても止められない。
「……私、やっぱりここにいちゃいけない存在なんだ」
「そんなことない」
「だって……だって!」
私は起きがり、両手で頭を抱えた。
その手に力が入り、自分の髪を強く引っ張っていた。
「クロエ」
同じく起き上がったロナルドが私の名前を呼ぶ。
しかし、私の耳には入ってこなかった。
「私……私は……何の為にここに」
「クロエ」
「私なんて、元々存在しない、存在する価値もない人間なんだ」
自分の髪から手を放し、今度は首に手をやった。無意識だった。
目からは大量の涙が流れていた。
「最初から、私は世界に見放されていたんだ。やっぱり生きる意味なんて無いんだ!」
「やめろ」
「私には最初から幸せになる資格なんてない。どう足掻いても、全部無駄」
「おい」
首に当てた手に力が入り、爪が皮膚を傷つけた。
ロナルドは私の手を首から引き離し、強く握って抑えた。
「ここへ来る前も世界の邪魔者、ここへ来てからも世界の邪魔者!」
「クロエ、黙れ!」
「生きる価値のない私はどの世界で死んだって同じ。私が死んでも哀しむ人は誰もいない!」
突然目の前が暗くなり、何かで口を塞がれた。
私の手を握っていない方のロナルドの手が、私の後頭部を抑えていた。
視界を遮っていたのはロナルドの顔だった。
私はロナルドにキスされた状態のまま、静止していた。