第7章 存在価値と愛
そこから先の記憶は曖昧だった。
いつの間にか、私はどこかのベッドの上に寝かされていた。
見慣れない天井。窓から月明かりが射し込んでいる。
隣には、椅子に座ったロナルドがいた。
顔を下にしていて表情はよくわからないが、あまり良い状況ではないことはわかる。
私は上半身だけ起こした。
それを見たロナルドに声を掛けられる。
「クロエ。大丈夫?」
「……うん」
水の入ったコップを差し出され、受け取った。
私はそれを少しずつ飲み干した。
「今夜からしばらく、この宿に泊めてもらおう」
「……ロナルドは?」
「もう少し狭い部屋を取ってある」
私は、今一人になるのが怖かった。
余計なことを考えてしまって、思い出さなくて良い感覚や記憶を呼び覚ましてしまうのではないかと不安だったのだ。
ベッドの上に置かれたロナルドの手を握った。
その手は、黒の手袋越しでも冷えているのがわかった。
「……一人にしないで」
「うん?」
「ずっと、傍にいて」
少し間をあけて、ロナルドが口を開いた。
「いいの?」
「え?」
「俺なんかがクロエの近くにいて」
「……ロナルドじゃなきゃ」
「ん?」
「ロナルドじゃなきゃ、嫌だ」
もう私は、自分の気持ちを抑えることが出来そうになかった。
それが彼を困らせることになるとしても、この想いを伝えたかった。
「あなたの近くに、ずっといたい。離れたくない……ワガママかもしれないけれど」
彼は一度手を放し、今度は彼の手が私の手を握った。
「ワガママ言って良いって言っただろ? それに、そんな可愛いワガママなら大歓迎だし」
ロナルドは私の頭を抱き寄せて言った。
「今夜も一緒に寝よっか」
私は、先程までの絶望感を忘れ、幸せに浸っていた。
彼と一緒にいられることがこんなに嬉しいことなんだと実感した。