第1章 出逢い
少し過呼吸気味になっていた私の肩を、ロナルドが優しくさすってくれた。
「大丈夫。俺がいるから」
彼のその言葉で、少しずつ落ち着きを取り戻していく。
私はゆっくりと顔を上げ、真横にいるロナルドの顔を見た。
眼鏡の奥の、黄緑の変わった色をした瞳に、吸い込まれそうな感覚があった。
「少しは落ち着いた? クロエちゃん、きっと色んなことを抱え込んでたんだね」
ロナルドはそう言いながら、私の頭をくしゃっと撫でた。
彼の優しく微笑む姿を見て、私の目からは自然と涙がこぼれ落ちていた。
それを見た彼は、ポケットから出したハンカチでそっと頰を拭ってくれた。
こういう人の温もりみたいなものを感じたのは、一体いつ振りだろう。
「さて、どうしようか」
「どこかの宿舎に頼んで、泊めてもらうしか」
「お金は持ってるの?」
「働いて返すことで話をつけます」
「現実的じゃないな」
「最悪、さっきみたいな路地裏に隠れて過ごします」
「そういう訳にはいかないっしょ」
「でも……」
「クロエちゃんさ、今ロンドンで起きてる事件、知らない?」
「事件?」
「そう」
「……すみません、わからないです」
「そっか」
ロナルドは、“仕事の道具”だと言っていたそれを両手で高く振り上げ、肩に担いだ。
「当てがない訳じゃないんだけど、ついてくる?」
突然の提案に、私はきょとんとしてしまった。
「ただ……」
彼は少し間をあけて続けた。
「もし、上手くいかなかった場合は」
「……やっぱり野宿ですか」
「違う違う! それは絶対ないから」
「じゃあ、なんでしょうか」
「やっぱ何でもない。この俺にかかれば上手くいかない訳ないんだったわ」
そう言ったロナルドは、そのまま歩き出した。