第3章 芽生え
「ごめんなさい」
「まーた謝る」
「こんなに温かいご飯、ずっと食べてなかった……」
「……そっか。美味しい?」
私は頷いた。
「そりゃ良かった! 全部クロエちゃんの分だから、遠慮しないで食べてね」
私はまた、堪えきれない涙を流しながらポリッジを食べた。
優しい味に、お腹も心も満たされた。
食器が片付けられた所で、ロナルドは真剣な表情で話し出した。
「今回、クロエちゃんが調査したがってる事件のことなんだけど」
それは紛れもなく、ジャック・ザ・リッパーについてだった。
「いくつか言っておかなきゃならないことがあるんだ」
私は固唾を呑んだ。
「まず、この事件はイレギュラーが多い」
「イレギュラー?」
「そう。死亡予定者リストの話、しただろ」
「うん」
「今回は、リストに載っていなかったはずの人間が急に死んだりしている」
その事実が、彼らにとってどのくらい重要なことなのかは、私にはわからない。
「クロエちゃんの伯母さんの名前は、リストには載っていないけれど、だからといって殺されずに済むとも限らない」
「……うん」
「ちなみに俺らにとってリストにない人間の死亡なんてのは、かなりの異常事態なんだよ」
ロナルドは手帳を取り出した。
「それから、元々リストに載っている内容の改変まで起きている。主に、死因が書き換えられている形跡があるらしい」
手帳をめくって何かを確認している。
「ま、それら全部、俺が直接調べ上げたことじゃないんだけどさ。管理課が色々と動いてたらしくて」
手帳を閉じて、ジャケットの内ポケットにしまう。
「何が言いたいかって言うと、クロエちゃんの伯母さんの名前がリストに載っていない以上、俺らにとってもその死は避けたいし、原因を突き止めたいわけだ」
私は目の前で話す彼の目をじっと見た。
「つまり、クロエちゃんと俺らの利害は一致してるってこと」
「……ということは」
「今回の件、俺はクロエちゃんに全面的に協力するよ」
目の前が、明るくなるような感覚があった。
「つっても、正式に依頼された調査じゃないから、あんまり目立った動きは出来ないけどね」
「ううん、ありがとう」