Little lieR【イケヴァン◆ifイベ原作】
第8章 口づけの理由
彼女が中庭へと降り立つ頃には、もう既に話し合いは終わったらしくて。
そこにはフィンだけが、スケッチブックに鉛筆を走らせている。
彼はまるで、絵画の中の人物のように眩しく神聖で………。
声すら掛けられずにいた彼女の視線に気づいたのか、フィンは顔を上げた。
「レフィリア………。あなただったんだね」
柔らかな笑み。彼女もつられて微笑み、そっと咲いたばかりの白薔薇を摘み取った。
「ここを描いてくれているの?」
「うん。こんなに綺麗な花の園は、他にないんだもの」
「そうね。私も、この中庭の花は好きよ………」
言いながら、その瞳が寂しそうな色を帯びる。
「………?」
じっと見つめる視線に耐えかねて、すばやく話題を変えた。
「以前にあったこと、覚えている?
私の母のお墓で、あなたが涙を拭ってくれたことよ」
「忘れるなんてできる訳ないよ」
「あのね。お母様や一族の方々は私のせいで亡くなったの」
「レフィリア………?」
「私は浅はかで、愚かであの方々を守りきれなかった………」
「やめてレフィリア。あなたはそんな人じゃないよ」
「いいえ………、私はあなたが思うような吸血鬼じゃな―――んんっ!」
続く筈だった言葉は、彼の唇に封じられた。
身を捩って逃れようとするけれど、しっかりと腰を抱かれているために叶わなくて。
角度を変えて、何度も重なる唇
漸く離れたと思えば、大きな手が頬を撫でた。
「好きだよ。あなたが好きだ………レフィリア」
「………っ」
その言葉に、どうしようもなく胸が押し潰れたようだった。