第1章 バニラ
慌ててスワイプして出ると、息を飲む音が聞こえた。
モニターまで戻ると、その少年もスマホを耳に当ててる。
『お…おのさん…?』
遠慮がちに聞こえてくる声は、ニノの声だった。
「え…?え…?ニノ…?」
モニターに映る少年が頷いた。
「…おまえ、家に来てる?」
『うん…』
少年の口が動いてる。
今聞こえてる声は、この少年から聞こえてる…?
「え?ちょっと…」
『お願い…入れて…?おうち…』
少年が顔を上げた。
その顔は、幼い頃のニノだった。
「どうしたんだよ…」
玄関に入ってきたニノは、疲れ切ってた。
それに…なんだか不思議な香りがした。
なんだろ、これ…
「寒い…」
急に寒くなったせいで、俺も厚手のトレーナーを着てるくらいなのに、ニノは薄着で。
慌てて部屋に入れてブランケットを掛けてやった。
「温かいもの、飲むか?」
「うん…」
リビングと間続きのキッチンに入って、慌ててお湯を沸かした。
キッチンからダイニングは見渡せて、カウンターの左奥にリビングが見える。
リビングに置いた大きなテレビの前にあるソファーに、小さな背中が見えた。
きゅっと口を引き結んで、何も言おうとしなかった。
一体、ニノに何が起こったんだ…?